なぜこの国は「価値を生まない」のか──“生存コストの基盤不足”と構造的無能
■ 序章:誰が悪いのか? ではなく、全員が「構造の奴隷」になっている
現代日本において、何かがおかしいと感じる人は多い。
だが、その正体は漠然としている。政治家の力が足りないから? 官僚が腐っているから? 国民が無関心だから?
答えはそのすべてに「イエス」だが、本質はもっと深い。
この国は、「価値を創出し循環させる設計図」を持たないまま、制度疲労と思考停止に陥っている。
■ 思考しない国家、思考できない社会
- 政治家:票になることしかしない。国家ビジョンを語らず、短期利益に依存。
- 官僚:予算維持と前例踏襲に必死で、構造そのものを設計・更新する発想がない。
- 国民:生活防衛と情報疲弊で、考える余力も、行動する時間も奪われている。
こうして、国家全体が「未来のための設計者不在」状態となり、崩壊寸前の構造が温存されている。
■ 真の“生存コスト”とは何か?
SNSやメディアでは、教育・情報・文化アクセスなども生存コストとして論じられることがある。
だが、それは副次的な話だ。本質的な「人間としての物理的生存」を守るために必要な基盤は、以下の3点に集約される。
1. 食料自給力の崩壊
- 日本の食料自給率(カロリーベース)は約37%。これは先進国中で最低レベル。
- 畑は減り、農家は高齢化し、後継者は消え、依存するのは「外国産の安価な食材」。
構造的問題:
- 「農業=儲からない仕事」という常識が放置され続けている
- 自給力強化に本気で取り組む長期戦略が存在しない
- 国家は農を“食料保障”ではなく、“業界”としてしか見ていない
2. エネルギー自給率の低迷
- 日本のエネルギー自給率は10%未満。太陽光・風力は増加中だが、系統接続の規制や利益相反により伸び悩む。
- 原子力は方針が二転三転し、再稼働も停滞。
構造的問題:
- 国家として「エネルギー自立」を前提にしたビジョンが欠如
- 発電→流通→消費までの統合戦略が断片的で非効率
- 地政学的リスク(中東依存)への備えも不十分
3. 住居の構造的コスト高
- 大都市の家賃は所得に対して高すぎ、持ち家はローン地獄。
- 一方、全国には空き家850万戸以上。需給ミスマッチが深刻。
構造的問題:
- 地価政策・都市計画・相続税制などが、空き家を再活用できない仕組みを作っている
- 公営住宅や社会的住宅が世界基準で見ても極端に少ない
- 「住居は権利ではなく商品」という価値観が定着
■ なぜ国家は「生存コストの基盤設計」を怠るのか?
理由は明快。票にならないから、予算にならないから、誰もやりたがらない。
- 官僚は「予算の既得権益」化が最優先。構造改革は敵を作る。
- 政治家は「すぐに成果が見えない」政策には手を出さない。
- 国民は「今を生きるのに精一杯」で、設計者になる余裕がない。
結果、国家は生存基盤の保証より、支持率や利権の温存に集中する構造になっている。
■ “価値創出の循環”を設計し直せ
国家とは本来、「国民が安定して生き、創造し、次の価値を生み出せる環境」を作るものだ。
▼ 価値創出の理想モデル:
- 安定した基盤(食・エネルギー・住)を提供
- 国民が「安心して考え、働き、挑戦する」環境を持つ
- 新しい価値(技術・文化・産業)を生み出す
- それが税収と再投資を生み、国家全体が成長する
この循環を再設計しない限り、どんな経済対策も、その場しのぎの延命措置にしかならない。
■ 解決の鍵は「構造の設計」そのものに手を出す意志
必要なのは、以下のような戦略的行動だ:
- 戦略的食料・エネルギー・住宅政策の導入(国家戦略として)
- 分散型インフラと自治支援による“自律国家”モデルへの転換
- 民間と行政の境界を越えた「構造アーキテクト」の育成
- 国民リテラシーの底上げと「参加型設計社会」の実現
■ 終章:誰が設計するのか?
私たちは今、
- 設計されていない国家
- 考えない構造
- 疲弊した国民意識
という三重苦の中で生きている。
この地獄から脱出するには、「誰かがやるだろう」ではなく、
「国民が構造を疑い、構造を設計し直す一歩を踏み出す」しかない。
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