中国の「寝そべり族」とは?— 資本主義ゲームへの合理的な抵抗
近年、中国の若者の間で「寝そべり族(躺平族)」と呼ばれるライフスタイルが注目を集めています。これは単なる怠惰や逃避ではなく、中国の資本主義のあり方に対する冷静かつ合理的な選択とも言えます。では、なぜ「寝そべり」が広がり、それが資本主義や国際的な経済戦略とどう関係しているのでしょうか?
寝そべり族とは?— 競争社会からの降板
「寝そべり(躺平)」という言葉は、中国の若者の間で広まったスローガンの一つで、「最低限の生活を維持しながら、過剰な競争から降りる」ことを指します。これは、高度成長期を終えた中国社会の厳しい現実を反映しており、特に以下のような要因が背景にあります。
- 経済成長の鈍化:過去の急成長と比べ、近年の中国経済は成長率が鈍化し、不動産市場の崩壊や失業率の上昇などの問題に直面。
- 極端な競争社会:「996勤務(朝9時から夜9時まで週6日)」のような過酷な労働環境や、過熱する学歴社会が若者の負担になっている。
- 社会保障の不安:高騰する住宅価格、年金制度の不透明さ、医療費の高騰などにより、将来に対する希望を持ちづらい状況。
こうした厳しい社会環境の中で、「無理に頑張っても報われないなら、最低限の生活で満足しよう」というのが寝そべり族の基本的な考え方です。
資本主義ゲームへの冷静な判断
興味深いのは、この「寝そべり」が単なる個人の怠惰ではなく、資本主義のゲームに対する合理的な拒否として機能している点です。
1. 中国政府の国際経済戦略と国内の格差
中国政府は「共同富裕(格差是正)」を掲げながらも、実際には国際的な資本主義ゲームに深く入り込んでいます。国家資本を駆使して海外市場を拡大し、巨大企業を支援しながらも、国内の一般市民には依然として厳しい労働環境や経済的不安が残ります。若者たちは、こうした構造を理解し、「このゲームに参加する価値はあるのか?」と問い始めています。
2. 資本主義の極限でのサイレント・レジスタンス
「寝そべる」ことは、政府や企業に対する明確な反抗ではなく、静かで個人的な抵抗の形です。競争を続けること自体が利益を生む仕組みに対し、あえて参加しないことで、そのシステムに消極的ながらも影響を与える戦略と捉えることもできます。
3. 世界に広がる「寝そべり」の兆候
この動きは中国だけに限りません。日本では「FIREムーブメント(経済的自立と早期リタイア)」が流行し、韓国では「N放世代(恋愛、結婚、出産、マイホーム、キャリアなどを諦める世代)」が社会問題となっています。欧米でも、若者の間で「Quiet Quitting(静かな退職)」のような動きが見られます。これらはすべて、過酷な資本主義競争に対する新しいスタンスの表れとも言えるでしょう。
まとめ:寝そべりは新たな生存戦略
「寝そべり族」の登場は、中国の若者が合理的な視点で経済システムを分析し、自分にとって最適な選択をしている証拠とも言えます。彼らは、無理に経済成長の波に乗るよりも、自分の時間と人生を重視するという新しい価値観を持っています。
これは単なる一時的なムーブメントではなく、世界の資本主義社会が直面する根本的な課題を映し出しているのかもしれません。今後、各国が「寝そべり」にどう対応していくのか、またそれが資本主義のあり方にどのような影響を与えるのかが注目されます。
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