MMT論争と合理主義者の分断：前提認識の違いがもたらす経済観の対立

日本におけるMMT（Modern Monetary Theory、現代貨幣理論）の論争は、単なる感情的な対立ではなく、合理主義者同士の意見が大きく分かれる点に特徴がある。これは、経済に関する前提認識の違いが影響しており、特に以下のような要素が絡むことで議論が複雑化している。

これらの要素が、MMTを支持する立場と反対する立場の間で異なる経済観を生み出し、合理的な思考を持つ者同士でさえ対立する状況を生んでいる。では、なぜ合理主義者の間でここまで大きな意見の相違が生じるのか？本記事では、その背景を掘り下げる。

金融資本の成長 vs. 実体経済の衰退

近年、日本を含む先進国では金融資本が急速に成長する一方で、実体経済の衰退が進んでいる。株式市場や不動産市場が活発である一方、製造業の国内生産が縮小し、雇用の安定性が低下している。この状況が、MMTに対する評価を分ける要因となっている。

ここでの根本的な対立は、「金融市場を通じた経済成長の可能性をどう評価するか」にある。MMT支持派は、「金融市場の拡張よりも、政府の積極財政が実体経済を復活させる」と考え、反対派は「金融市場の過剰な影響力を抑えなければ、どれだけ政府支出を増やしても格差や投機が進むだけだ」と主張する。

日本は近年、国内投資よりも海外投資（資本流出）が進んでいる。企業は利益を国内市場に再投資するのではなく、成長市場である新興国やアメリカ市場へ資本を移動させる傾向がある。この資本流出が、MMTの持続可能性についての意見を分ける要因となっている。

MMTの理論的前提の一つに「政府が供給する貨幣は国内経済に流れ込む」という考えがある。しかし、グローバル経済の現状を考慮すると、政府が資金を供給しても、それが国内に留まらず、海外投資へ流出するリスクがある。この点をどう評価するかで、合理主義者の間でも意見が分かれる。

日本は世界でも最速で進む少子高齢化の影響を受ける国であり、これがMMTの実効性に対する評価を大きく左右している。

この対立の根底には、「少子高齢化による経済成長の鈍化をどう克服するか」という課題がある。MMT支持派は、「財政拡大によって経済成長の力を維持できる」と考えるが、反対派は「労働人口が減少する以上、経済の自然成長力が低下し、財政拡大の効果は限定的だ」と主張する。

日本では、格差が拡大し、中間層の消費が落ち込んでいる。これは、MMTの政策的有効性をめぐる対立をさらに深める要因となっている。

この対立は、「政府の介入が格差問題の解決にどれだけ寄与するか」という視点の違いに由来する。MMT支持派は「政府が積極的に格差を是正すべき」と考えるのに対し、反対派は「市場構造の変化こそが問題であり、財政政策だけでは不十分」と見る。

日本経済は、輸出産業に依存する割合が高く、同時に食料やエネルギーの多くを輸入に頼っている。この構造が、MMTの実行可能性に対する評価を左右する。

MMTは自国通貨建ての財政赤字を問題視しないが、日本のような資源輸入依存国では、円の価値が下がれば、輸入コストが増大し、生活コストが上昇するリスクがある。このリスクをどう評価するかで、合理主義者の意見が分かれている。

MMTをめぐる議論は、データの解釈や経済の前提認識の違いによって、合理主義者同士でも真っ向から対立する状況を生んでいる。重要なのは、以下の姿勢を持つことだ。

MMTの是非を問うだけでなく、合理的な議論を通じて、より持続可能な経済政策を模索することが求められるのではないだろうか。